この記事の三行要約
デヴィッド・クローネンバーグは、肉体の嫌悪表現以上に「現実と幻覚の境界が崩れる精神的恐怖」を描いてきた監督である。
『イグジステンズ』は、生体型ゲーム機による没入型VRを通して「どこまでがゲームで、どこからが現実か分からなくなる」体験を観客に突きつける。
この映画は仮想現実やシミュレーション仮説を先取りしつつ、最終的に「現実とは何か」「あなたはどう生きたいのか」という問いへと収束していく。
デビッド・クローネンバーグと言えば、知る人ぞ知るカナダのキショイ映画の代名詞とも言える監督なんですが、私にとってはこの程度の気色悪さは耐性範囲内だし(もっと気色悪いものはいくらでもある)、その「精神的怖さ」には注目してきました。
「聞いたことない」という人はWikipediaを参照してもらいたいのです。割合と有名な作品としては、
- スキャナーズ:超能力者どうしの戦いを描き、頭部破裂シーンもある。
- ザ・フライ:昔の映画『ハエ男の恐怖』のリメイク。物質転送装置を完成させた科学者が自らの身体でテストした結果。。。
- ヴィデオドローム:「ヴィデオドローム」なる海賊番組視聴によって現実が変容していく体験。幻覚とするには説明のつかない現象が起こり始める。
- 裸のランチ:ウィリアム・S・バロウズの同名小説が原作。現実と幻覚の境界が崩れ、「何が現実か?」を絶えず問い直される映画。
で、特に人間の身体がぐちゃぐちゃっとキショイ感じになるのがこの人の常套的な表現ですね。その一方、全くキショイシーンがないにも関わらず(ただし、性的描写豊富)精神的な恐怖を感じる作品としては『クラッシュ』があります。
まぁごく普通の人にはおすすめできない監督ですね。そうは言いながらも、この記事では『イグジステンズ』という作品に触れたいのです。私が思うにクローネンバーグの映画全体からみてキショ度50%位のこの作品は、カナダ本国での公開日が、ちょうど映画『マトリックス』と同月の1999年4月というものですが、ある意味では『マトリックス』の先を行ってます。
ただ、ものすごく退屈な映画と感じる人もいるかもしれません。
筋はだいたいこんな感じです(ネタバレなし)。くれぐれも楽しい映画でもないし、『マトリックス』のようなアクションじたての映画でもありません。
天才ゲームデザイナーのアレグラは、生体型ゲーム機を使った仮想現実ゲーム「イグジステンズ」の体験会を開くが、仮想現実を敵視する過激派に襲われる。
偶然居合わせた警備員パイクルとともに逃亡する中で、アレグラは自分の“生きているゲーム機”を守るため、ゲームに興味のない彼の身体に接続ポートを開けさせる。
この映画のゲーム機は金属製ではなく、有機体のような存在で、プレイとは「身体に直接入り込む行為」として描かれる。
やがて二人はゲームを起動するが、そこから先は――どこまでがゲームで、どこからが現実なのかが、誰にも(見ているこちらにも)分からなくなっていく。
この映画が重要な理由というのは、当然ですが、没入型仮想現実ゲームの危険性の一方で、今現在のこの現実も「そうではないのか?」と思わせるところです。
前者としては、イーロン・マスクなどの「脳チップ」があります。現在は思考を読みとるだけのようですが、おそらくその先には、チップから仮想現実データが流されて、人々はそれを「楽しむ」ようになっていくでしょう。日本政府(内閣府)は、ムーンショット計画といって2050年には時間と空間を越える自由な世界を作るなどと言ってますが(一体誰がこんなことを言い出し、内閣府のホームページにも掲載されているのでしょうか?国民の誰もこんなことを追求してくれなどとは言っていないはずです)、人間はこういう方向に慣らされて、「悲惨な現実」から逃れて楽しいゲームの中に没頭するようになるのでしょう。
後者としては、いわゆる「シミュレーション仮説」につながりますが、簡単に言えば、「この現実」自体が、異星人あるいは「神」によるコンピュータシミュレーションであるという説があることです。私自身は「神的な存在」によるものだと信じていますが。
結局のところ「現実とは何か?」を問い直すということになりますが、「極度に発展した仮想現実ゲームの最終地点」として描かれたこの映画は、むしろ「わかりやすい」とさえ思ってしまうところですね。これを追求していくと、結局のところ、「あなたはどう生きたいのか?あなたの意思は?」というところになっていくのでしょう。
ただ、毎日テレビで海外の虐殺を見たりしながら、普段と変わらない生活をしている人々も、結局のところ仮想現実ゲームの中にいると言えないこともないですけどね。
劇中のセリフを少し
パイクル:なぜ殺した。次は僕を殺すのか?
アレグラ:ただのゲームキャラよ。嫌な奴だったわ
パイクル:嫌なやつだから殺した?
アレグラ:ゲームの中の話よ
パイクル:アレグラ、もしこれが現実だったら?
アレグラ:現実だったら?
パイクル:君は本当に人を殺したことになるんだ

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