ビル様の素顔を知ろう、おすすめ本

マイクロソフト帝国 裁かれる闇〈上巻〉 単行本 – 1998/12/1
マイクロソフト帝国 裁かれる闇〈下巻〉 単行本 – 1998/12/1

書籍紹介より

ゲイツとは何者 法廷闘争で描く 独占帝国の内幕

ビル・ゲイツとは何者だろう。世界のパソコン基本ソフト(OS)とアプリケーション市場の9割を制圧するマイクロソフト帝国の総帥にして世界一の大富豪である彼は、ネットワーク時代の英雄か、はたまた支配欲の亡者なのか──。時代の寵児に対するこのような問いかけは重要だ。実力派コンピュータージャーナリストの手になる本書は、現代という時代を理解するための必須文献に仕上がっている。

小さな会社を相手にプログラム作りをしていたゲイツが最初に飛躍するキッカケになったIBMとの関係は、彼の母親メアリーによって与えられた。慈善団体の理事職だった彼女のコネクションが、ゲイツの第一歩だったのだ。

しかし、コンピューター界の表舞台に登場したゲイツは、その後、市場制覇のためにはありとあらゆる手段を講じてきたという。裏切りと詐術。略奪的なマーケティング戦略。法律や契約を盾に取り、取引相手をどこまでも追い詰める商法。

ビジネスとはそういうものだ、と訳知り顔の識者たちは口を揃えるだろう。実際、ゲイツの独占のおかげでパソコンは今日ほどに普及し、その結果、世界中に大量の雇用が確保されたではないかとする評価も一面の真実である。

マイクロソフトが提供する商品の特性が、しかし、ここで考慮されなければならない。パソコンネットワークというインフラストラクチャー(社会資本)は、人間社会のありようを根底から覆すだけのパワーを持ち、そのくせどこまでもブラックボックスであり続けようとする。

そのような世界では、独占はやがて、恐怖をもたらすに違いない。“帝国”の内幕と、その商法を反トラスト法違反として問題視するアメリカ司法当局との法廷闘争を精緻せいちに描き出した本書の意義は、だからこそ大きい。

テレビの映像では涼やかに見えるゲイツの素顔は、絶えず苛立ち、思い通りに事が運ばなければ部下や取材に訪れた記者たちを罵倒することがしばしばだという。だが一方、ドイツ法人の女性スタッフに心を奪われ、懸命に求愛を繰り返す純情さを持ち合わせているのも、またゲイツなのである。

独占や支配を夢見た人間の末路は、歴史が教えてくれている。彼は今後、どのように生きていくのだろうか。

ドラマ仕立てを意識しすぎ、やや読みにくい文章をたどりながら、私はそんなことを考えた。もちろん訳者の後書きにあるように「驚くべき示唆に富んだ現代マーケティングの実践教科書」として読むのも自由である。

(ジャーナリスト 斎藤 貴男)
(日経ビジネス1999/3/8号 Copyright©日経BP社.All rights reserved.)
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