この記事の三行要約
- フラットアースをめぐる歴史的実験(ロウボサム、ウォレスなど)を見れば、「見えた」という観察結果だけではなく、大気差(気差)や球差を考慮しないと誤った結論になることがわかる。
- 測量士試験や測量技術を見れば、光の屈折と地球の曲率補正は現実の測量・GPS・航空・通信インフラで不可欠な前提になっていることが明らか。
- フラットアース論は都合よく観察の一部だけを採用しており、現代技術を使いながらその前提を否定している。そこに彼らの根本的自己矛盾がある。
ご注意:私のフラットアーサーに対する姿勢はフラットアーサーの愚かさ(1):遠方が見えるからと言って平面の証明ではないの最初に書いてあるので、読んでいない方は先にお読みください。
フラットアースの歴史は古いです。昨日今日信者になったような人が偉そうな口をきいていますが、実際には19世紀からフラットアーサーはいました。
球体説と平面説の歴史を改めて調べてみると、興味深いことがわかります。私も今回調べてみて驚愕しました。
人類の歴史をざっとみると、球体説はなんと紀元前からあったというのです。しかし、当然ながら一般庶民は何となく平面と思っていたようです。しかし、マゼランの航海など様々な出来事があり、公教育に球体説が組み込まれたのが19世紀のことです。
あまりにざっとしすぎていますが、詳細は後で書こうと思います。今回はその話ではないので。
ロウボサムの実験(1838)
ともあれ、19世紀になって、一般庶民が「球体説」にじわじわと「洗脳」されてしまう中、「いやいや、地球は平面なのだ!」と言い出した最初の人、最初のフラットアーサーがサミュエル・バーリー・ロウボサム(1816~1884)のようです。
つまり、元祖フラットアーサー、大衆洗脳に立ち向かった最初の真実の人ということです、フラットアーサー側から見ればですね。
彼は地球が平面であることを証明すべく、1838年にオールド・ベッドフォード川で実験を行いました。

この川は、約9.7km(6マイル)にわたって完全な直線で、水流がほぼ静止しているという、曲率測定に理想的な条件の運河でした。こんなところのようです。
彼の実験は以下のようなものです。
- 水面から約20cm上に望遠鏡を設置
- 旗(0.9m)を立てたボートがゆっくり遠ざかるのを観察
- 9.7km先まで終始ボートが見えた
- 「球体なら約3.4m沈んで見えなくなるはずが見えた=地球は平らである」と主張
地球が球体で光が直進すると仮定すると、実際には彼の想定の倍以上沈んでいるはずです。AIに計算させたところ、旗のてっぺんは6.28m沈んでいたはずです。ところが、船も旗も9.7km先に到達するまで終始見えたというわけです。
これは地球が平面である証拠なのでは???
ウォレスの反証実験(1870)
ロウボサムの実験から32年後、アルフレッド・ラッセル・ウォレスが「そんなことあるかい!」と言って反証実験をしたんですね。同じオールド・ベッドフォード川の同じ場所でしたが、実験方法を変えました。
- 視線を水面から4m上に設定
- 運河沿いに3本のポールを等間隔に設置し、それぞれ同じ高さにマークを付ける
- 経緯儀(測量用望遠鏡)で観察すると、中央のポールのマークが両端より高く見えた。
以下の図はわかりやすさのためにかなり極端にしていますが、要するにこういうことです。
さて、実際には、ウォレスがこんな実験を行った理由は、フラットアース支持者であるジョン・ハムデンと賭けをしたからだといいます。
そして、ハムデンは賭けに負けたわけですが、結果を認めず、ウォレスへの誹謗中傷・嫌がらせを死ぬまで続けたということです。客観的事実を認めようとせず、相手を中傷することしかできない現代のフラットアーサーにそっくりです。
ウォレスは測量士だった
最初のロウボサムの実験での観測位置は水面から20cmでした、ウォレスは4mです。前者は平面説の証拠、後者は球体説の証拠に思えますね。
ウォレスが4mにした理由は、彼が測量士であり、「大気差(atmospheric refraction)」を知っていたからです。つまり、水面のすぐ上では大気差による影響が大きいことです。簡単に言えば、冷たい水面のすぐ上の空気とその上の空気では温度差が生じ、その結果密度差が生じて光が曲げられてしまうことです。
フラットアーサーの愚かさ(3):蜃気楼はなかったことにで蜃気楼現象を確認しましたが、「遠くにある物は、見た通りの位置にあるわけではない」ことを、現代はもちろんですが、19世紀の測量士もわかっていました。ですから、ウォレスは最初からハムデンとの賭けに勝てるとわかっていたのです。ロウボサム実験の「水面から20cm」という低い観測位置に問題があることをウォレスは理解していたのです。
測量士国家試験でも出題される大気差
測量士国家試験では、この概念は「大気差」ではなく、「気差」という言葉で表されているようです。
問題1
令和3年測量士補試験 第10問(水準測量の誤差)を解説に測量士補の過去問解説がありますが、この第10問のbを見てみましょう。
b.大気の屈折による誤差を小さくするには、視準距離を可能な限り「 イ (長く or 短く)」する方が良い。
答えは「短く」ですが、言葉の意味がわかれば、常識で答えられる問題です。つまり、測量機(望遠鏡)から標尺(目標)を見るわけですが、その距離を視準距離と言います。「これが短いほど正確だよ!長くすると大気屈折の影響を受けちゃうよ!」という、当たり前の問いと答えです。
ただし、次の問題2を見れば、大気屈折だけの問題ではないこともわかってきます。
問題2
次の問題を見てみましょう。令和 2 年測量士補試験問題集のNo.7」です。
ぱっと見難しそうですが、簡単な話です。以下のB地点は既に標高がわかっています。ここから測量機(望遠鏡)を使ってA地点にある反射板(目標)を見ます。その距離と角度からA地点の標高を計算せよというものです。
地球が平面で光が直進すると仮定すれば、この問題は中高生にも解けることでしょう。しかし、問題は「両差は0.10m」という点です。
- 気差(大気差):大気の密度の違い(主に温度・気圧など)によって、光が屈折して曲がることで生じる誤差の補正値
- 球差:地球が球面であるため、遠方ほど基準面が下がり、視準線との差が生じる誤差の補正値
- 両差:球差と気差を合わせた補正値(通常は「球差 − 気差」)
どうでしょうか?測量士の世界では、光の曲がり(温度による大気密度の違いの結果として生じてしまう)と地球の球面形状による影響を考慮しないとお話にならないことがわかります。
球差、気差による補正については、【測量士・測量士補】両差(球差、気差)の補正方向にて説明されていますね。
オールダムの再現実験(1901)
ウォレスが1870年に球体説を証明したにもかかわらず、ハムデン側は結果を認めず、フラットアース支持者たちは「ウォレスは不正をした」と主張し続けていました。決着がつかないまま30年以上が経過した状況で、ヘンリー・ユール・オールダムが改めて決定版となる実験を実施したのです。
ウォレスの実験は肉眼での観察だけだったのですが、オールダムはウォレスと同様の実験をカメラで撮影したわけです。その結果、中間地点のポールが両端より高く見えることを写真付きで証明したわけですね。
ブローント夫人の写真(1904)
黙っていられないフラットアーサーは、再度「地球は平ら」を証明する実験を行いました。レディ・エリザベス・アン・ブローントなるフラットアース運動の活動家です。彼女はのちの地球平面協会(Flat Earth Society)の結成に影響を与えた人物です。
これもまた、ロウボサム、ウォレス、オールダムと同じように、オールド・ベッドフォード川が舞台です。
- プロ写真家エドガー・クリフトンを雇い、水面から60cmの高さにカメラを設置
- 10km先のシートを撮影すると、写真に写った。
ということで、地球が平らでなければ見えるはずのない距離の物体が写った=地球は平らとして大々的に発表したわけです。
その後の議論
結局のところ、フラットアーサーは水面に近い位置で観測して「平らだ!」と主張し、球体派は「いやいや屈折の影響があるよ、水面から離さないと意味ないよ」と言って、曲率を証明してきたわけです。つまり、「地球は球体だ」と証明してきたわけですね。この後はどうなったんでしょう?AIに聞いてみました。
構造的な繰り返し
その後も双方が「自分たちの主張を支持する実験」を繰り返すという構図が続きました。新たな実験者はそれぞれ自分が証明したい結論と結びついた方法で実験を行いました。
つまり:
- フラットアース側→水面に近い位置で観測→「見えた=平ら」
- 球体側→水面から離した位置で観測→「中央が高く見えた=曲率あり」
という同じパターンが繰り返された。
現代フラットアーサーによる再現試み
近年、現代のフラットアーサーたちがロウボサムの実験を再現しようとしましたが、特筆すべき結果を示すことができませんでした。
議論が終わらない本質的な理由
ベッドフォード川で実験を行った全員が、同じ約32インチ(約81cm)という中間ポールの隆起という結果を得ており、これは地球の曲率と一致します。しかし大気差が地球の曲率をちょうど打ち消すように見える場合があるため、フラットアーサーはこれを「平らに見える」証拠として使い続けています。
まとめ
この川をめぐる議論の本質は「実験結果の解釈の問題」ではなく、先ほどの話に戻りますが「認識論と動機の問題」です。同じ川、同じ現象を見て、方法の違いによって異なる結論が出ることをフラットアース側は「証拠が揺らいでいる」と解釈し、球体側は「大気差という変数の制御が重要だ」と解釈する。この認識の構造的な違いが、160年以上議論が続いている理由です。
フラットアーサーの根本的な自己矛盾
フラットアースはただの宗教と断定するほかはありません。多くの宗教でそうですが、都合の良いものは信じ込み、悪ければ無視します。フラットアーサーにとってそれらは何でしょうか?
フラットアーサーは「自分の目で見えた」という経験的観察を最重要視していますよね。その一方で、その「見える」という現象自体が光の屈折で大きく歪められる可能性を肯定しながら拒否するという矛盾を抱えています。
A. つまり、「光はまっすぐに進む」と想定しています。そして、「遠くの物体が見えた」という経験的観察から「地球は平面だ!」と主張します。
B. しかし、蜃気楼・大気差現象は否定できません。肯定せざるを得ないのです。しかし、これは「見える」という経験的観察を大きく捻じ曲げる効果を持ちます。
明らかにAとBは矛盾しているのですから、フラットアーサーは蜃気楼・大気差を本気で否定しなければならないはずです。あくまで「光はまっすぐに進む」に固執するのであれば、そうせざるをえないはずです。
蜃気楼現象は「そんなの幻想だよ」など別の説明で済むかもしれませんが、しかし、測量の世界での大気差・球差を否定するとなると大変ですよね。せいぜいがんばってください。
大気差(気差)・球差をないものとすると、どんな混乱が起きるか?
フラットアーサーは「光は常にまっすぐに進む、地球は平面である」と主張するわけですから、先程説明した大気差(気差)・球差は「全く存在していない」わけです。
では、現在の世界でいきなりこれらの概念がなくなってしまうと一体どうなるのか、AIに聞いてみました。
1. 測量・建設が全て狂う
気差・球差の補正をやめた瞬間、長距離測量の誤差が蓄積します。
トンネル工事:両側から掘り進めて出会えなくなる
橋梁建設:橋脚の高さがずれて橋がつながらない
高速道路:設計通りの勾配にならない
ダム:満水時の水位計算が狂う
日本の場合、東京〜大阪間の新幹線路線設計をやり直すと数メートル単位のずれが生じます。
2. GPSが機能しなくなる
GPSは地球を球体として計算した座標系を使っています。さらに衛星からの電波が大気を通過する際の屈折補正も組み込まれています。
「平面・光直進」に切り替えると:
カーナビが数km単位でずれる
航空機の自動操縦が機能しない
船舶の航法が狂う
スマートフォンの位置情報が使えなくなる
3. 航空・航海が崩壊する
球体地球を前提とした大圏航路(最短距離)の計算が全て無効になります。
東京〜ロンドン間の最短ルートが変わる
燃料計算が狂い、太平洋上で燃料切れのリスク
気象衛星のデータと実際の気象が一致しなくなる
4. 通信インフラが止まる
衛星通信・放送衛星は球体地球を前提とした軌道計算で運用されています。
衛星放送が受信できなくなる
海底ケーブルの敷設位置計算が狂う
気象予報が不正確になる
5. 軍事・安全保障が機能しなくなる
弾道ミサイルの軌道計算、砲兵の射撃諸元計算にも球差・気差の補正が組み込まれています。実際19世紀の砲兵術の教科書にすでにこれらの補正が記載されています。
本質的な皮肉
フラットアーサーが今この瞬間に使っているスマートフォン・カーナビ・飛行機・インターネット衛星通信は、すべて「球体地球と光の屈折」を前提とした計算で動いています。
フラットアース論を信じながらGoogleマップを使うことは、自分の主張を自分で否定しているのと同じです。これがフラットアース論の最も根本的な自己矛盾です。
フラットアーサーはネトウヨと同類
やたらと中国を敵視するネトウヨたちは、「中国製の物は使うな!」とのたまいますが、しかし、中国なしでは生活が成り立たないことに気づけません。こういった言説を、中国製部品あるいは中国製のスマホを使ってSNSに流しているのですから、自己矛盾もいいところです。
AIが上で示した皮肉もまったく同じことですね。フラットアースを信じ込みながら、Google Mapを平気で使っているのです。その矛盾に一切気づかないのがフラットアーサーというものです。
両者共に、自身の足元を安易に否定しながら、何も考えずにその上に立ち、支えてもらっているのです。







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