この記事の三行要約
- 林千勝は、第五福竜丸の肝障害・死亡原因について「輸血による肝炎あるいは薬剤中毒」と都築正男が述べたとするが、その出典は示されておらず、都築の国会証言にもその発言は確認できない。
- 一方、明石真言は2007年の講演で、第五福竜丸の被曝は明確に「放射線」によるものとし、肝臓障害については輸血が原因である可能性を指摘している。
- したがって林の記述は、後年の明石らによる研究・推測を都築の発言に帰属させた可能性があり、「都築がそう証言した」とする根拠は確認できない。
林千勝『広島・長崎 悲劇の正体』の『第31章 核開発・核実験の不都合な真実』です。
第5福竜丸乗組員の死因は肝炎?
この本を読んでいて「あれ?おかしいな?」と感じて、調べてみると、これまた林がとんでもないウソをついていることがすぐにわかります。『第31章 核開発・核実験の不都合な真実』の中の『第五福竜丸 死因は輸血による肝炎』という個所です。
林が言うストーリーはこうです。
- 1954年3月1日に第五福竜丸が水爆実験に遭遇(160km)
- 2週間後、読売がスクープ記事。23人全員を急性放射能症と診断
- 4週間後、病院にて輸血が開始される。久保山さんは6週間後に体調悪化。
- 9月に久保山さん死去。
- 2004年度の明石真言博士らの研究によれば、同年度までに12人が死亡。内訳は肝がん6名、肝硬変2名、肝線維症1名、大腸がん1名、心不全1名、交通事故1 名。多くの生存者にも肝機能障害があった。
私自身は、もしかしたらそうかもしれないと思います。もちろん、これらの人々に放射線障害はあったはずですが、実際の死因は病院の措置によるもの、というのはいかにもありそうだと考えます。
しかし、ここからが問題です。林はその後でこう書いているのです。
P370:医学調査担当の都築正男のコメント
- 入院後の4〜6週間後には造血障害が発症した。
- 肝障害が17人に出現した。輸血でのウイルス感染肝炎あるいは薬剤中毒の可能性もあるようだ。
水爆実験は偽装であった可能性がある。第五福竜丸の乗組員の死因は輸血あるいは薬剤か。
で、都築が本当にこんなことを言ったのかが問題になります。しかし、調べようとしても、姑息なことに、林は上記の「都築のコメント」なるものの出典を示していません。
林の矛盾
ここでちょっとおかしいと思いませんか?
原爆なかった論の戯言:林千勝の大嘘(15)〜廣島爆撃調査報告のウソで書きましたが、林は最近のYouTube番組(2026/09/06)でこう言っているのです。
(都築博士は)第五福竜丸についても毒ガスだっていう証言を残してるんですよ。っていうことがわかる証言を国会でね(残してる)。
ところが、この本では、第五福竜丸について「毒ガスだ」とは言っていないのです。つまり、
- 本書:輸血でのウイルス感染肝炎あるいは薬剤中毒
- YouTube番組:毒ガス
ということは、つまり、水爆実験は偽装であり実際は毒ガスで、しかし、乗組員の死亡原因は輸血でのウイルス感染肝炎あるいは薬剤中毒ということなのでしょうか???
しかも、両方の説とも「都築博士がそう言ってる」というのです。しかし、原爆なかった論の戯言:林千勝の大嘘(15)〜廣島爆撃調査報告のウソで書きましたが、都築の国会証言をきちんと読めば、彼は「毒ガスだ」などと一言も言っていません。むしろ「放射能障害である」と主張していることは明らかです。
都築はこんなことを言ったのか?
都築が「毒ガスだ」と言ったというのは、真っ赤なウソであることは既に証明できています。明確に「放射能障害である」と国会で発言しているのです。
では、都築は「輸血でのウイルス感染肝炎あるいは薬剤中毒の可能性」などと言ったのでしょうか?これが問題です。林は出典を明示していません。いつの発言かもわかりません。調べてみてもそんな発言は見つかりません。
都築の発言の前に林はこう書いていますね、「2004年度の明石真言博士らの研究によれば、同年度までに12人が死亡。内訳は肝がん6名、肝硬変2名、肝線維症1名、大腸がん1名、心不全1名、交通事故1 名。多くの生存者にも肝機能障害があった」と。
明石の2007年の説明
明石の発言については確認可能です。放射線科学の2008.02です(実際には、2007/11のシンポジウムの記録)。たしかに明石博士によるものです。これをかいつまんで紹介しましょう。
来場者 A:個人的な事ではなく全体的な事はどうであったのか ?
明石:放医研の年報で、亡くなられた方の中には肝臓の障害が非常に多い、悪性腫瘍も含めて数字なども発表しており、悪性腫瘍がどういう所にでたのかという事までは発表しています。しかし、現在生きている方と亡くなられた方と区別がついてしまうので、何名中何名は生きているとか数字はだしているが、時期に関しては公表していません。年報はオープンになっています。
来場者 B:先生が最初に申された輸血による肝障害というお話があったが、放射線による障害と何らかのウイルスが係わった複合的な影響についてどのように評価していますか ?
明石:私どものこれまでの研究調査の中では、おそらく免疫機能がかなり落ちていた為にウイルス感染に影響していた可能性があると考えていますが、具体的にどの程度影響があったのかという事は私どもの調査では分かっていません。ただ、おそらく可能性として、肝臓障害の比率から輸血による障害の可能性があったであろう、と考えています。医療の目からみるとそう考えるべきであろうと思っていますし、おそらく間違っていないと思います。 ただ、免疫機能がどの程度関係したのかというデータについては持っておりません。
来場者 C :(略)このようなデータは人数も少ないしみなさんに確認しないとだせない、と言ってい
たのに実際は確認しているのですか ? 検査をしてその結果を本人に伝えているのですか ?明石:私がこの第五福竜丸の乗組員の健康診断に係わってからまだ 17 年であるので、それ以前に関しては分からないところがあります。私どもが関与するようになってからは、当初おそらく誤解が生じたとしたら、結果を言葉で伝えていたことにあると思います。ただ、肝臓に関しても輸血による肝炎であろうと話はしています。こういう問題が生じてからは、健康診断を行う毎に全て文章でお送りして、どういう対応が必要か報告をしています。当時(25 年前)はおそらく言葉で話していたので、分かりにくい部分があったのではないかと思うが、私どもはこれ以上コメントできる事はありません。
(略)
最後にこの市民講座の開催の意義に関して触れたい。ビキニ環礁における第五福竜丸乗組員の被ばくは、広島と長崎における原子爆弾による被ばくとは異なり純粋に放射線によるものであり、熱や爆風による影響はない。また肝臓障害についても放射線被ばくによる免疫機能の低下による影響は不明であるが、第一義的には輸血が原因として考えられる事などを、市民講座として伝えることが出来たことは大きな意味を持つと思う。
つまり、明石はこういう主張です、「純粋に放射線によるものである」「肝臓障害について放射線被ばくによる免疫機能低下の影響は不明だが、第一義的には輸血が原因として考えられる」と。
つまり、都築も明石も「放射線だよ」と明確に言っているわけです。ただし、明石は直接的死因としては輸血が原因ではないかとの立場です。
そして、ここが重要な点ですが、明石は都築が「輸血でのウイルス感染肝炎あるいは薬剤中毒の可能性と言った」とは言っていないのです。
放射線医学総合研究所(2007年頃?)
こういう資料があります。おそらく放射線医学総合研究所の紹介資料でしょう。48ページにこの記述があります。
1.ビキニ被災者実態調査
明石真言、中山文明、立崎英夫、梅田諭(研究生)、蜂谷みさを(被ばく医療部)
吉田光明(被ばく線量評価部)昭和29年(1954年)3月1日太平洋上ビキニ環礁で行われた米国による核実験で、放射性降下物により静岡県焼津市の第五福竜丸の乗組員23名(当時18〜39歳)が放射線に被ばくした。この実態調査はこれら被ばく者の健康状態を長期的に観察し、晩発性放射線障害を調査するものである。数は23名と多くはないが、50年近くに及ぶ被ばく例の調査追跡は世界でも稀であり貴重なデータである。被ばく様式は実験当日の急性被ばく及び帰港までの約2週間にわたる亜急性被ばくである。また、推定線量は文献より1.7〜6.9 Gyであったとされている。死因について、最近では平成15年(2003年)5月に1名が肝癌で死亡、これまでに死亡したのは12名となった(内訳は肝癌6名、肝硬変2名、肝線維症1名、大腸癌1名、心不全1名、交通事故1名)。
平成19年(2007年)度の調査は焼津市立総合病院の協力の下に6名の健康診断により行われた。上部消化管造影検査にて1名に胃に悪性所見、1名に粘膜不整、3名に胃炎を認めた。眼科検査にて、糖尿病性網膜症が1名、高血圧性変化を1名に認め、眼科にて加療中であり、年齢相当の水晶体混濁を数名に認めた。また、胸部大動脈瘤が1名に認めた。肝機能異常が多くの例に認められ、肝炎ウイルスの検査では陽性率が非常に高い。しかし、腹部造影CT検査などでは今回の受診者には肝細胞癌などの悪性腫瘍の所見は認めなかった。被ばく当時、全員が骨髄抑制や凝固異常に対して全血もしくは血漿の輸血を受けており、このことが一因となった可能性が高い。肝機能については地域の病院で診療を継続している。被災者は高齢化に伴い、糖尿病、高血圧症、高脂血症、高尿酸血症、心疾患、脳血管障害等に罹患している例が多い。今後も地域の病院と密接に連携し患者の病態に応じた調査を行ってゆく。平成19年度は、日本放射線影響学会と共催で公開市民講座「第五福竜丸を振り返って」を開催し、この事件による健康影響の正しい理解につとめた(※先の資料)。
たしかに、「内訳は云々」の個所は林の記述に一致しますね。
総合評価
再度、林の記述ですが、
P370:医学調査担当の都築正男のコメント
- 入院後の4〜6週間後には造血障害が発症した。
- 肝障害が17人に出現した。輸血でのウイルス感染肝炎あるいは薬剤中毒の可能性もあるようだ。
水爆実験は偽装であった可能性がある。第五福竜丸の乗組員の死因は輸血あるいは薬剤か。
少なくとも都築が「輸血でのウイルス感染肝炎あるいは薬剤中毒の可能性もあるようだ」としたのは嘘でしょうね。都築は1968年没で、そのずっと後に明石らの研究でこういった推測が出てきたと考えられます。
しかし、先に見たように明石はこう言っているのです。
おそらく免疫機能がかなり落ちていた為にウイルス感染に影響していた可能性があると考えていますが、具体的にどの程度影響があったのかという事は私どもの調査では分かっていません。ただ、おそらく可能性として、肝臓障害の比率から輸血による障害の可能性があったであろう、と考えています。医療の目からみるとそう考えるべきであろうと思っていますし、おそらく間違っていないと思います。 ただ、免疫機能がどの程度関係したのかというデータについては持っておりません。
そして、重要な点として、少なくともこの2つの文書において、明石は都築の名に言及していないのです。

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