原爆なかった論の戯言:林千勝の大嘘(29)〜第20章:林の厚顔無恥さには呆れるほかない(1)

原爆なかった論の戯言シリーズはこちら

本記事の三行要約

  • 林は、主に笹本征男らの記述を引用・改変し、「放射線被害の否定」や「毒ガス隠し」という主張を組み立てている。
  • GHQによる日本側原爆調査報告書の英訳には、「否定できない」を「証明できない」とするなど、原文の意味を反転・変更した箇所があると松村高夫の研究がある。
  • 林は、バーチェットの記事や白血球減少などについても「毒ガス」の証拠のように見せかけているが、元資料は主として原爆放射線・残留放射能をめぐる議論だった。 

林千勝著、経営科学出版の書籍『広島・長崎 悲劇の正体』の『第20章 日本メディアと米軍によるプロパガンダの数々』について見ていきます。

この章全体を詳細に調べてみた私の感想としてはタイトルの通りです。よくここまで恥知らずなことができるというものです。

林の悪質な騙しの手口

要するにこういう話です。

  • 当時の米日メディアは共に原爆の破壊力を最大限に宣伝した。
  • 一方で、放射線・残留放射能の危険性を低く伝えた。
  • なぜなら、占領軍の安全が重要な課題だったから。
  • しかし、林はそれを「毒ガス隠しだ」と主張。
  • 林は、放射能ではなく毒ガスであることの何の証拠も提示できていない。

しかも、ここが林の厚顔無恥な点ですが、ほとんどの記述が笹本 征男『米軍占領下の原爆調査: 原爆加害国になった日本』からの引用と思われるのですが、引用文献・ページとして以下しか書いていないのです。

1 『原爆投下とアメリカ人の核認識――通常兵器から「核」兵器へ』168・172・202頁(マイケル・ゴーディン)
2 『米軍占領下の原爆調査 原爆加害国になった日本』51頁(笹本征男)
3 『原爆投下、米国人医師は何を見たか――マンハッタン計画から広島・長崎まで 隠蔽された真実』(ページ不明、ジェームズ・ノーラン) 

当然ながら笹本は原爆前提ですが、林はそれを適当に切り貼りして何とか毒ガスの存在にしようとしているのです。このあまりの卑劣ぶりには呆れ返るほかはないでしょう。

笹本の『米軍占領下の原爆調査 原爆加害国になった日本』は非常に重要な書籍であり、一読をおすすめします。現在は中古で1万円位するようですが、これを通読すれば林の戯言のほとんどは吹き飛んでしまうことでしょう。

そんな本をわざわざ林は引用し、リファレンスとして掲げているのですから、林がいかに読者を馬鹿にしているかがわかるというものです。

林の引用(まるパクリ)&切り取りを斬る

では、林がどんなふうに引用している(パクっている)か、どんなふうに切り取って印象操作しているかを見ていきましょう。林の本での記述は茶色で示しています。

核による終末論

林P214:第20章 日米メディアと米軍によるプロパガンダの数々

衝撃戦略に基づく神話づくり

8月15日以降、主要各紙が「原爆」の大キャンペーンに乗り出した。「原爆」であることの裏書人は仁科芳雄。さっそく、トルーマン声明を後押しする「原子爆弾とは」の記事を掲載し、全国民を洗脳していく。新型コロナパンデミックではアンソニー・ファウチが果たした役割だ。

米メディアは「核による終末論」(「核兵器至上主義」)

終戦直後の数日から数週間、地球上で唯一存在する原爆が日本への3発目の原爆として使用されなかったプルトニウム型爆弾であったという時期、原爆に関する一般の人々の認識は、核による絶滅の恐怖という終末論に集約させられていった。

日本降伏直後の米メディアは、「原爆が戦争を終わらせた」(8月15日がその象徴)との単純な物語を作った。それは、終戦の様々な可能性――無条件降伏の修正、ソビエトの参戦、本土封鎖と爆撃の強化――に関して幅広く論じられたこととは全く異なった。

元ネタは以下です。引用ではなく、改変されていますが、この程度はまぁいいでしょう。

ゴーディンP168:原子爆弾に関する一般の人々の知識や恐怖心は、こうした終戦直後の数日から数週間の間に、すなわち、地球上での唯一の原爆が、日本への第三発目の攻撃に使用されなかったファット・マン型プルトニウム爆弾であったまさにその時に、核による絶滅というとてつもない、終末論に近い恐怖へとほぼ集約されていったのである。

降伏直後アメリカのメディアは、どのように「原爆が戦争を終わらせたか」、非常に単純な物語を作り始めたのである。それは、終戦の様々な形態の可能性――無条件降伏の修正、ソヴィエトの参戦、本土封鎖と爆撃の強化――に関して、一九四五年を通して幅広く論じられてきたこととは全く異なったものであった。

前半部分の日本語訳は少々わかりにくいですね。AIに原著のこの部分を聞いてみました。

Public knowledge and fears about the atomic bomb were almost entirely channeled in these first postwar days and weeks into tremendous, almost apocalyptic fears of nuclear annihilation – all at a time when the only atomic bomb on earth was the plutonium Fat Man that was not used for a third atomic strike on Japan.

原子爆弾に関する一般の人々の知識や恐怖心は、こうした戦後直後の数日から数週間の間に、ほぼ全面的に、途方もなく、ほとんど終末論的ともいえる核による絶滅への恐怖へと向けられていった――まさにその時、地球上に存在していた唯一の原子爆弾は、結局、日本への第三の原爆攻撃には使用されなかったプルトニウム型の「ファット・マン」だったのである。 

つまり、AIにまとめさせるとこういう経緯のようです。

  • 8月8日に1つ目のFat Man用組立体が試験・リハーサルに使われた、核物質なし。
  • 8月9日に2つ目のFat Manが長崎へ投下された。
  • 3つ目の組立体が残り、3発目の原爆攻撃に使用する可能性があった。ただし、必要なプルトニウムがそろう関係で、投下できる最短時期は8月21日とされた。
  • 実際、グローヴスは8月10日に「8月17日以降に3発目を使用する」計画をマーシャルに伝えている。
  • 日本は8月10日に降伏意思を伝え、8月14日に天皇が降伏を決定、15日に玉音放送となった。 

核兵器は特別な兵器

林P216-217:米国人の98%が終戦後、原爆について知った。日本に投下された原爆がニュース・マーケットを完全に飽和状態にした。

ほとんどの米国人は、突如として残虐で血で血を洗う戦争を終わらせたかのように、「原爆が特別」なのは自明と心底信じた。
また、戦後、通常兵器による戦争は「深刻」ではないという錯覚をも生じさせた(1)。

元ネタは以下です。ずいぶんとまとめちゃってますね。もはや引用とは言えないのでは?

ゴーディンP168:二〇%のアメリカ人がほとんど、あるいは全くニュースソースに触れていなかった時期に、アメリカ人の九八%が終戦後原爆について聞いたと思われるのである。世論という観点からすると、これまで全く前例のないほどニュース・マーケットを飽和状態にしたということは驚異的なことである

ゴーディンP202:核兵器は「特別」な兵器であった。そして通常兵器と核兵器の間に絶対的な境界線を引くことは、通常兵器による軍事力の使用に対する障壁を低くするという逆説的な影響を持つことになったのである。最終的に、そのような戦争はあたかも「深刻」ではないということになる。もし深刻なものであれば、核戦争になるであろうから

ニューヨーク・タイムズ記事と笹本の主張

林P217-218:8月25日付のニューヨーク・タイムズは、次のように煽った。

「広島に投下された原子爆弾は大地に放射能すなわち残留紫外線を与え、被爆後2週間に3万人の犠牲者がこの死の光線により死亡したことを日本のラジオ東京は去る金曜日(1945年8月24日)に伝えた。広島および長崎における死者数は今なお増大している」と同放送は伝えている……。

現在、広島に住む人々は「生きた幽霊」であり放射能の影響により死すべく運命づけられた人達である……。

同盟通信によれば、原爆のウラニウム核分裂により生じた放射能は死者数を増大しつつあり、復興作業に従事した人達に様々な症状を惹起しつつある」

一方で、オッペンハイマーは次のように述べていた。

「ニューメキシコにおいて行われた核実験において、事実上残留放射能は認められなかった」

元ネタは以下です。林はこの部分を笹本から引用したことを記述していません。読者に自分の文章だと思わせています。

また、林はニューヨーク・タイムズを引用するだけで、著者の笹本の意図を当然ながらカットしています。要するに林は、米側のプロパガンダを鵜呑みにしているというわけです。

笹本P31:これらの記事の集大成は以下のニューヨーク・タイムズ紙に見られる。

「広島に投下された原子爆弾は大地に放射能するなわち残留紫外線を与え、被爆後二週間に三万人の犠牲者がこの死の光線により死亡したことを日本のラジオ東京は去る金曜日(一九四五年八月二十四日――引用者)伝えた。広島および同様に原爆をこうむった長崎における死者数は今なお増大していると同放送は伝えている。(略)現在、広島に住む人々は〝生きた幽霊〟であり、放射能の影響により死すべく運命づけられた人たちである。(略)同盟通信によれば、原爆のウラニウム核分裂により生じた放射能は死者数を増大しつつあり、復興の作業に従事した人たちに様々な症状を惹起しつつある。

日本問題の専門家の分析によれば、日本がわれわれの同情を勝ち取る意図のもとに原子爆弾の被害を利用することもありえないことではない。

原爆開発に指導的な役割を果たした科学者の一人、J・ロバート・オッペンハイマー博士は、ニューメキシコにおいて行なわれた核実験において、事実上残留放射能は認められなかったと述べている。(略)

日本問題の専門家は日本が連合軍の占領期間を短縮し、賠償責任を軽減する目的をもって、科学的に確立されていない原爆の恐怖を強調する理論を利用し、アメリカの良心を傷つけるような宣伝をしているものと考えている」

(ニューヨーク・タイムズ、八月二十五日)⁴⁰

これらの情報戦の基調は、原爆による死傷者数の発表と原爆放射能による人体への晩発性障害の現状暴露であり、先の大本営調査団や陸軍調査班、技術院調査団などの初動調査の結果が最大限に利用されたのである。特に八月十日付の大本営調査団報告の第四項目「外傷ハサシテ顕著ナラザルモ一日乃至二日後死セル者アリ(※外傷はさほど顕著ではないものの、1日ないし2日後に死亡した者がいる)」という判断は、原爆被害暴露情報戦の基調となっていた。日本側が初動調査を推進すればするほどアメリカに対する利用宣伝の効果が増大していったということである。

アメリカは日本のこのような原爆被害の利用を最も恐れていたのであろう。広島への原爆攻撃後、アメリカの海外放送は「広島は七十五年間、人畜の生存を許さぬ土地となった。また被害調査のために科学者を派遣するがごとき行為は自殺に等しい」⁴¹(朝日、一九四五年八月二十五日)と繰り返し放送し、日本側の被害調査を牽制したという。

これまで広島七五年不毛説は語り伝えられていたが、アメリカ側が日本側の原爆被害初動調査を牽制していたことは気付かれなかった。アメリカ側は日本側が原爆被害を利用するということに気付いていたのである。逆にいえば、日本側は見事にアメリカの痛点をついたということである。

この時点では、日本側は原爆の非人道性を強調するために、残留放射能による被害を訴えていたわけですが、それに対しニューヨーク・タイムズは当局側のプロパガンダを流しただけの話です。何の証拠にもなりません。

オッペンハイマーは何と言ったか?

ちなみに、上の部分で笹本もオッペンハイマーの言を引用しているわけですが、この事情を調べてみると、以下です。

1945年8月8日、米陸軍省がハロルド・ジェイコブソンの「広島は70年間居住不能になる」という説に反論する声明を出したわけですが、その中にオッペンハイマーの言が引用されているという形です。Book I – General – Vol. 4 – Chapter 8 – Press Releases – Part 1、PDFの102ページです。

陸軍省
広報局
報道部

報道関係者向け覚書
1945年8月8日

ハロルド・ジェイコブソン博士へのインタビューに基づく記事が今朝の新聞に掲載されたことについて、報道機関から問い合わせがあったため、陸軍省は本日、以下の声明を発表した。

「爆弾の影響のあらゆる側面について数年来研究してきた、最も権威ある専門家たちの見解によれば、放射能についてのジェイコブソン博士の推測には根拠がない。これらの同じ専門家たちは、博士が述べているような放射能現象が起こるとは、これまで予想していなかった。」

この分野の研究を統括していたJ・R・オッペンハイマー博士は、見解を尋ねられて次のように述べた。

「われわれが行ってきたすべての実験・研究、そしてニューメキシコで行った実験の結果に基づけば、広島の地上には無視できない程度の放射能は存在しなかったと考える十分な理由があり、存在したわずかな放射能も非常に速やかに減衰したと考えられる。」

つまり、こういうややこしい事態になっていたんですね。

  • 日本側は原爆の被害を強調したい。米国の犯罪を世界に向けて発信したい。
  • 米側は広島を調査させたくないがため、「75年間住めない状態」だと宣伝した。
  • しかし、オッペンハイマーは「Trinity実験の結果では、それほど大量の放射能は存在しなかったし、広島にあってもすぐになくなるだろう」とした。

ここで極めて不思議なことなのですが、Trinity実験という「嘘の原爆」の科学的側面を指揮したオッペンハイマーの言うことを、林はここでは信じ込んでいるんですかね?

非常に不思議としか言いようがないのですが、同じ人間の発した一方は信じないけれども、もう一方は信じ込むという林には、一体どんな根拠があるのでしょうか?

後年の研究で否定された林(笹本)の説

ここは複雑です。まず林はこのように書いています。

林P218:「核兵器至上主義」とは、核兵器が「絶対的な兵器」という概念を基に構築された戦略、戦術、政治に対する態度で、米ソ冷戦期を経て、現代世界においてもなお支配的。「ニューヨーク・タイムズ」紙のユダヤ人記者ウィリアム・ローレンスによって形成され、科学者、ジャーナリスト、政治家によって修正を加えられ、日本降伏後数日以内(原爆が一つしか用意できない時期にもかかわらず)に作り上げられたイメージ――世界規模のアルマゲドンとしての核戦争――は、ほとんど変わることなく今もある。

まさに、このことが、戦後世界の核支配体制の柱となった。

毒ガス隠し(放射線を併せて否定する状況に)

体制が完成するまで、情報は不統制だった。9月3日に、日本政府がマンハッタン管区調査団(横浜)へ提出した「原爆被害調査報告書」の第2部「広島破壊の報告(放射能に関して)」の結論(8月15日付)によれば、

「一、爆心地中心の周辺には人体に被害を及ぼす程度の放射能は存在していない。二、練兵場(「爆心」直下から約300メートル)では野菜の栽培が可能であることは心強い」であった。(2)

前半の引用元が今のところ不明ですが、後半は笹本です。笹本自身はこう書いています。

笹本P51:日本政府によるアメリカ占領軍に対する原爆被害調査報告書の提出は、降伏後の大日本帝国の協力体制を示すものとして重要である。放射能調査に関して、報告書の第二部「広島破滅の報告(放射能に関して)」の結論は次のようであった。

「一、爆心地の周辺には人体に被害を及ぼす程度の放射能は存在していない。二、練兵場では野菜の栽培が可能であることは心強い。三、爆発地域にいて白血球減少に苦しむ人々、及び身体不調に苦しむかも知れない人々は、身体の機能を回復するために日光浴をし十分な食べ物を摂取すべきである。四、月経がある婦人および妊産婦の調査は、生殖器官が被害を受けているかどうか明らかにするかも知れない」

で、ここからが少々ややこしいのですが、この報告書は、こういう経緯です。

  • 日本政府が日本語(旧かなづかい)で記述
  • それをGHQが英訳。このタイトルは『FULL TRANSLATION OF REPORTS ON EFFECT OF ATOMIC BOMB AT HIROSHIMA』
  • 笹本が参照しているのは(だから林の参照しているのも)英訳版であり、それを日本語訳したもの。

調べてみると、日本語から英語への翻訳の際に故意に改ざんが行われているのです。したがって、林も、その元となっている笹本も誤りです。結論を書いてしまうと、林も笹本もこう書いていますが、

一、爆心地中心の周辺には人体に被害を及ぼす程度の放射能は存在していない。二、練兵場(「爆心」直下から約300メートル)では野菜の栽培が可能であることは心強い

実際にはこうだったのです。林も笹本もまるで誤りです。

一、爆心地に人体に有害な程度の放射能が全面的に存在するとは考えられないので、人心の安定を図る必要がある。二、爆心地付近の練兵場で植物栽培の実験を行うことは、人々の不安を和らげ、安心させるための一助となるだろう。

これは、日本側の報告書を翻訳者が改ざんした結果なのですが、詳細は本記事の一番最後に述べます。

笹本による解釈

前項では、笹本が間違っていたために林も間違ったわけですが、しかし、笹本は「おかしいんじゃないか?」と感じていたようです。なぜなら、この時期、日本側はまだ「放射能の害を声高に言うことによってその非人道性を世界に知らしめる」という方針だったはずだからです。笹本は次のように書いています。

笹本P51:日本政府によるアメリカ占領軍に対する原爆被害調査報告書の提出は、降伏後の大日本帝国の協力体制を示すものとして重要である。放射能調査に関して、報告書の第二部「広島破滅の報告(放射能に関して)」の結論は次のようであった。

「二、爆心地の周辺には人体に被害を及ぼす程度の放射能は存在していない。二、練兵場では野菜の栽培が可能であることは心強い。三、爆発地域にいて白血球減少に苦しむ人々、及び身体不調に苦しむかも知れない人々は、身体の機能を回復するために日光浴をし十分な食べ物を摂取すべきである。四、月経がある婦人および妊産婦の調査は、生殖器官が被害を受けているかどうか明らかにするかも知れない」

ファーレルは第二部報告書の結論部分もグローヴスに報告している。原爆の残留放射能の影響についての存在を否定するという結論は、それまでの日本側の原爆被害暴露の線から考えるとアメリカ側に日 本側が歩み寄っていることを調査協力を要請したものと考えられる。これは大日本帝国がアメリカ占領軍に恭順の意を表わした証拠であり、アメリカ側と同一の方向で日本側が調査協力を要請したものと考えられる。

つまりは、翻訳者が意図的に日本側の報告を改ざんしたことによって、米国の意「危険な残留放射能はない」に沿うようになったわけです。

バーチェットのスクープ記事

林P219:9月5日、ウィルフレッド・バーチェット通信員のスクープ記事「原子の疫病」が、「ロンドン・デイリー・エクスプレス」の一面に掲載された。

「30日後の広島。免れた人々が死に始めている。原子の疫病による被害者。世界への警告として私はこの記事を書く。治療中の医師は倒れる。毒ガスの恐怖――全員マスクをかぶる」

その日、バーチェットは帝国ホテルで占領軍の原爆調査関係者の会議に出席。そこで、

准将の服装をした科学者が、原爆放射線――私が説明した症状を呈する――の問題はありえない……」と説明。

元ネタは以下です。

笹本P219:バーチェットは広島でタイプした原稿を同盟通信社を通じて東京から打電することができた。九月五日付のデイリー・エクスプレスには「原爆疫病 『私は、世界への警告として、これを書く』 医師たちは働きながら倒れる 毒ガスの恐怖――全員マスクをかぶる」という見出しでバーチェットの記事が掲載された。

(略)

バーチェットは広島から東京に帰ってから、帝国ホテルでアメリカ占領軍の原爆調査関係者の会議に出席した。

「会議は終りにちかづいていた。しかし、その会議が広島からの私の電報――原爆の後障害で人びとは死んでいったという――を否定することが主たる目標であったことはあきらかであった。准将の服装をした科学者(※ファレルのこと)が、原爆放射線――私が説明した症状を呈する――の問題はありえない。なぜなら、爆弾は、『残留放射線』の危険をとりのぞくために、相当の高度で爆発させられたからだと説明した

おかしいですね、林はなぜ引用元の「残留放射線」の言葉を削っているのしょう?つまり、こうです。

  • 原爆放射線〜炸裂時に発生する放射線と残留放射線を含む広い意味
  • 残留放射線〜その後に残った放射線

林の意図は明らかです。明らかに不都合な個所をカットして印象操作する狙いです。

そして、当然ですが、バーチェットが「毒ガスの恐怖」「全員マスクをかぶる」と言っているのは、「毒ガス」ではなく、残留放射能のことです。この部分だけを取り出すことにより、林はまたも印象操作しているわけです。

林にとって大変残念なことに、笹本は、この3ページ後にこんなことを書いているのです。

笹本P222:ニューヨーク・タイムズの報道は、アメリカ軍の原爆の残留放射能の存在否定という線からなされていたことが分かる。すでにアメリカの新聞は日本側の原爆被害暴露情報を報道していたのであり、それ故にアメリカ政府と軍はアメリカ市民に対して日本側の暴露情報を徹底して否定しなければならなかったのである。

しかし、バーチェットは次のような疑問を投げかけている。バーチェットは次のような疑問を投げかけている。

(略)

「それにしてもなぜ、彼らは被爆地に残留放射能がないと国民に信じこませるために大さわぎをしたのだろうか。どうひかえめに考えても、その原因の一端は私にはいまだに思っている」

ここまで読めば、バーチェットが「毒ガスの恐怖」と言っていたのは、「残留放射能(線)」のことだとわかるでしょう。また、林が切り取りによって印象操作していることも確信できると思います。

米軍は、毒ガスと疑われる症状を否定???

林P220:グローヴス少将直属の科学者で、マンハッタン管区調査団長トーマス・ファレル准将は、記者会見で、「9月上旬において、原子放射能の余燼のために苦しんでいる者は皆無だ」と言明した。

米軍は、人道上の非難をかわすとともに、毒ガスと疑われる症状を否定しなければならず、「放射能の余燼」についてもあえて否定した。

前半は笹本の引用にも関わらず、引用マークがついていません。後半は、明らかに林の願望を書いたものです。林は引用と自らの妄想の区別がつかないようにしているのです。

笹本P220:なお「准将の服装をした科学者」とはマンハッタン管区調査団長の一人であるトーマス・F・ファーレル准将である。この会議でファーレル准将はバーチェットが広島で見聞した原爆放射線の後障害をことごく否定した。「スポークスマンは顔を青くして『君は日本の宣伝の犠牲になったのではないのかね』といって、腰をおろした。おきまりの『サンキュー』で会議は散会となった」【7】とバーチェットは記している。

今堀誠二はバーチェットが広島から東京に帰ってから、マンハッタン管区調査団長ファーレル准将が行なった記者会見で「まずデイリー・エクスプレスにのった原爆症記事を全面的に否定して後、広島や長崎では原爆で死ぬべきものは死んでしまったから、九月上旬において、原子放射能の余燼のために苦しんでいる者は皆無だということを、公式に発表した」と書いている。【8】

このファーレル准将の記者会見における発言の「九月上旬において、原子放射能の余燼のために苦しんでいる者は皆無だ」という線で流された記事がある。九月十二日付のニューヨーク・タイムズには、ウィリアム・L・ローレンスが「米原爆投下地、東京の作り話を斬る」という見出しで、ニューメキシコ九月九日(遅延)発の記事を書いていた。 

林の言う「米軍は、人道上の非難をかわすとともに、毒ガスと疑われる症状を否定しなければならず」は、まったくの嘘です。これらの笹本の記述の中に言葉としては「毒ガス」は出てくるものの(先のバーチェットの発言)、マスタードガスなどを示すものは一切ありません。

広 島 • 長崎の原子爆弾に関する初期調査 

日本語原文・英訳版の比較研究報告として、1996年の『広島・長崎の原子爆弾に関する初期調査』というものがあります。慶応大学の松村高夫による論文です。これによれば、元の日本語文をGHQが英訳したものが間違っているというのです。明らかな誤訳であり、しかも故意と思われるのです。つまり、

笹本も林も、元の日本語を参照していないために、誤訳された、いや故意に改ざんされた英文を信じ込んでいる!

ということになるわけです。ちなみに、笹本の著書は、松村の論文以前の1995年です。

先のPDFの9ページ(印刷ページ115)を見てみましょう。論文著者はこう言っています。

次 の 〔資料 A 〕 は, こ の 陸 軍 省 第 2 次調査班 の 4 名による調査報告である。続く 〔資料B 〕 は, 〔資 料 A〕の 1945年 9 月 6 日付英訳されたものからの抜粋である。 注目すべきは,英訳にあたって数力所にわたり改ざんがなされている点である。 抜粋されている部分は,その改ざんされた箇所に関連した部分である。 

1. 爆発直後の放射線・放射性物質

日本側の報告書にはこうあります(PDF9、印刷115)。

「爆撃直後ニ於テハ人体ニ障害ヲ与へ得ル程度ノ放射線或ハ放射性物質ノ存在セル事及ビ人工放射線物質ノ発現セルコトハ必ズシモ否定シ得ズ」

爆発直後に人体に障害を与え得る程度の放射線・放射性物質が存在したことや、人工放射性物質が生成したことを、必ずしも否定できない

ところが英訳はこうなっていると松村は指摘しています(PDF14、印刷120)

2. Immediately following the explosion, the amount of radioactive rays which caused human injuries could not be determined. Also, the actual presence of radio-­active substances and the assumption that artificial radioactive substances were created, could not be proved.

(could not be determined および could not be p roved との訳文は,放射線,放射性物質, 人 工 放 射 線 物 質 の 発 現 は 「必ズニモ否定シ得ズ(必ずしも否定できない)」 と の 原 文 〔資料 A 〕 を反対の意味にしている。)

つまり日本語の「否定できない」が、英訳では「確認できない/証明できない」に変更されているのです。松村はここを明確に、「原文を反対の意味にしている」と指摘しています。

※英文の翻訳:爆発直後には、人体に障害を引き起こした放射線の量を判定することはできなかった。また、放射性物質が実際に存在していたこと、および人工放射性物質が生成されたという推測についても、証明することはできなかった。

2. 「現在以後は人体に障害を与える程度ではない」

日本語原文では、現在の放射能についてこう書いています(PDF10、印刷116)。

「現在以後ニ於テハ爆心地ト雖へドモ先ヅ人ニ障害ヲ与ヘル程度ニハアラザルモノト思考セラル,更ニ現地ノ放射能ハ日ト共ニ減少スル(これ以降は、爆心地であっても、人体に障害を与える程度ではないと考えられる。また、現地の放射能は日ごとに減少する)」

ところが英訳ではこうなっていると松村は指摘します(PDF14、印刷120)。

It is believed that injuries cannot be inflicted upon humans even when near the area of explosion. The  amount of radioactivity decreased with the lapse of time :

(even when near the area of explosion とし,放 射 能 の 量 は 時 間 と と も に decreasedとし, 原 文 の 「現在以後ニ於テハ」 を訳出しないことにより,今後は放射能が人間に障害をあたえる程度ではないと考えられるとしていた原文の意味を, 爆発時から, あるいは現在までにすでに障害をあたえる程度ではなくなったことを含意させている。)

※英文の翻訳:爆発地域の近くにいても、人体に障害を与えることはないと考えられる。また、放射能の量は時間の経過とともに減少した。

3. 放射性物質の「直上に居住」

PDF10ページ、印刷ページ116にこうあります。

「元素ノ断片ニヨルモノナリトセバ其ノ直上ニ居住セバ生物学的ニ障害ヲ生ズル可能性否定シ得ザル(もし放射能が放射性元素の断片によるものなら、その直上に居住すれば、生物学的障害を生じる可能性は否定できない)」

松村はこう指摘しています(PDF14、印刷1120)。

(2) Because the results in (a) are com ­paratively inconsistent, it cannot be deter­mined whether radioactivity at the area of explosion was initiated by neutrons formed at the time of explosion or by particles of radioactive elements used by the enemy. If it is to be assumed that radioactivity was produced by those particles, the possibility of organic injury certainly cannot be deter­mined. It is difficult to imagine that com ­ paratively large quantities of those parti­cles exist in a widespread and undiminishing form. To ascertain this point, an imme­diate and throughly detailed re-investigation is necessary.

( 「其 ノ 直 上 ニ 居 住 セ パ ‘」 を 訳 出 せ ず ,organic injury の可能性一般が確定できないとしている。) 

※英文の翻訳:(a)の結果は比較的一致していないため、爆発地域における放射能が、爆発時に生じた中性子によって生じたものなのか、それとも敵が使用した放射性元素の粒子によって生じたものなのかを、判定することはできない。もし、その放射能がそれらの粒子によって生じたものだと仮定するならば、それによって生体に障害が生じる可能性についても、確実に判断することはできない。そのような粒子が、広範囲にわたり、しかも減少することなく、比較的大量に存在しているとは考えにくい。この点を明らかにするためには、直ちに、かつ徹底的に詳細な再調査を行う必要がある。

4. 白血球減少について

PDF11ページ、印刷ページ117にこうあります。

白血球減少ハ輻射線ニ ヨリテノミ生ズルモノニモアラザルニヨリ的確ナ結論ハ下シ得ズ(白血球減少について、患者・健康者の位置関係などが明確でなく、的確な結論は下し得ない), 

松村はこう指摘しています。PDF15、印刷121。

(2) The decrease in white corpusoles among the patients examined at the HIRO­SHIMA N o.2 Hospital could not be attributed to the effects of radiated rays since their relative locations at the time of injury could not be etablished definitely. If these patients die, bones can be examined and pathological examination conducted in order to clarify the problem. Classification of white corpusoles is being carried out at
the HIROSHIMA No.2 Hospital. 
(could not be attributed to the effects との訳出は, 原 文 の 「白血球減少ノ原因ハ …….的確ナ結論ハ下シ得ズ」 との意味を変更し,白血球の減少は放射線の影響に帰すことはできない, との意味にしている。 そのためには不都合となる, 原 文 の 「白血球減少ハ輻射線ニヨリテノミ生ズルモノニモアラザルニヨリ」 を訳出していない。) 

※英文の翻訳:広島第二病院で検査を受けた患者に見られた白血球の減少は、負傷した時点での患者の相対的な位置関係を明確に確定することができなかったため、放射線の影響によるものとは帰することができなかった。これらの患者が死亡した場合には、骨を調べるとともに病理学的検査を行い、この問題を明らかにすることができる。広島第二病院では、白血球の分類が行われている。

5. 一番気になる「結論」

PDF12、印刷118

五 .対 策
1. 爆心地ニ先ズ人体ニ有害ナル程度ニ放射能全面的ニ存スルトハ思考セラレザルニヨリ人心安定ヲ策スル要アリ(爆心地に人体に有害な程度の放射能が全面的に存在するとは考えられないので、人心の安定を図る必要がある)
2 . 爆心地付近ノ練兵場ニ植物栽培ノ実験ヲ実施スルモ人心安定策ノ一助タルべシ(爆心地付近の練兵場で植物栽培の実験を行うことは、人々の不安を和らげ、安心させるための一助となるだろう。)

松村の指摘はPDF、印刷121

E. CONCLUSION
( 原 文 は 「対 策 」 であり, 以 下 で の 「人心安定策トシテ……」 と書かれた部分などが訳出 されていない。)
1 . Radioactivity does not exist around the center of explosion to any great degree or sufficient to affect human beings.
2. It is encouraging to note that vegeta­bles can be cultivated on the parade grounds.
( 原 文 の 「植 物 栽 培 ノ 実 験 ヲ ス ル モ 人 心 安 定策ノー助タルベシ」 と の 対策•提言の意味を歪めている。)

※英文の翻訳:結論、爆心地周辺には、人体に影響を及ぼすほどの放射能は、さほど存在していない。
練兵場で野菜を栽培できることが確認されたのは、心強いことである。

章の途中ですが、続きは後にします。

 

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