原爆なかった論の戯言:林千勝の大嘘(2)〜Trinity実験批判の欺瞞の続きです。
この記事の三行要約
- 林はインディアナポリスの撃沈、パンプキン爆弾、エノラ・ゲイの出撃を根拠に原爆偽装説を提示するが、具体的な因果関係や証拠の検討がなく、印象操作に終始している。
- 特にパンプキン爆弾の「複合爆弾訓練説」は、通常爆弾ならなぜ特殊形状が必要なのか、本番でなぜ多数機を必要とするのかなど、林説内部に大きな矛盾がある。
- また、ティベッツの「ギミックは荒唐無稽な夢」とする発言も一次資料で確認できず、実際のSpitzer日記では「Gimmic」はSpitzer本人の叙述に登場し、「weird dream」もティベッツの発言ではなくSpitzer自身の感想として記されている。
正直なところ、これほどひどいものは、そうはないと思います。何かしら証拠のようなものを散りばめて、印象操作・誘導しているだけです。学術的という言葉は嫌いですが、少なくとも事実と論理によって読者を納得させようとするものではありません。要するに単なるプロパガンダです。大変申し訳ないが、こういった本を喜んで買うような人たちに合わせてあるということです。
で、引き続いてこの書籍の欺瞞を見ていきます。
第4章 見捨てられた重巡洋艦インディアナポリス
Trinity実験についても同じなのですが、なぜこんなものが一つの章になっているのか不可解です。一つの章にするにはあまりにも短い文章で、2ページ、タイトルや写真を省略すれば、2/3ページ程度なのです。
内容はたったこれだけ。
- 7/26にテニアン島にLittle Boy(広島用)を運び込んだ(実際には組み立て部品)
- 任務終了後、日本軍に撃沈された
という話なのですが、最後にこうあります。
意図的か、救助は遅れに遅れ、乗組員1199人中、生存は316人のみであった。口封じのためとの見方もある。
本当にたったこれだけなのです。「原爆部品を運びこんだ、その後撃沈された、救助を遅らせたのは意図的で、口封じのためではないか?」。
ただの印象操作であることがわかりますね。これが成立するためには、林は少なくとも次を説明せねばならないはずです。
- 日本軍に攻撃されずに、無事帰還する可能性もあったはず。たまたま日本軍に攻撃されたこの船を見殺しにすることが、どうして口封じになるのか?
- そもそも、乗組員は積荷の中身を知っていたのか?生存者は何と証言しているのか?
- 口封じというのであれば、なぜ積荷を運んだ者だけだったのか?テニアン島にいた軍人たち、投下機・観測機などの乗員も同様に始末されたのか?
- 原爆製造に関わった者たち、政府関係者・軍人・科学者はどうだったのか?始末されたのか?
- そうでないとすれば、なぜわざわざインディアナポリスだけを対象にしなければならなかったのか?
何ひとつまったくわかりません。何かしらを匂わせるだけで、論証はまったくなし。
実際はどうだったのかをAIに聞いてまとめました。その気になればいくらでも調べられるでしょうから、一次資料などは不要でしょう。
- 広島原爆の予備組立品、砲弾部分(当時存在したU-235の約半分相当)、その他重要部品を運んだ。
- 乗組員のほとんどは、その事実を知らなかった。
- 7/26に20分で陸揚げ、その後、グアム経由でレイテへ向かうも、7/30に日本軍の攻撃を受けて12分で沈没。
- 電力系統損傷で救援信号が出せなかった。別の無線からSOSをだそうとしたが、アンテナ設置などの問題で届かなかったとされる。
- 7/31レイテ到着予定だったが、「来てない」という報告が上がらず、誰も行方不明であることを知らなかった。
- 8/2に哨戒飛行をしていた航空機が、偶然海上の生存者を発見。
ということだそうです。
第5章 パンプキン爆弾群の役割
パンプキン爆弾というのは、長崎型原爆(Fat Man)と同じ形をした通常の爆弾です。こんな形にせざるをえなかったので、乗組員に慣れてもらうために原爆型通常爆弾を50個程度、事前に日本に落としてみたわけですね。
長崎型の「兄弟」とも言えるGadget(Trinity実験における爆発物)はこんな形でした。もちろん、いずれもレプリカです。
林はこう書いています。
しかし、パンプキン爆弾は、ファットマン投下訓練に偽装された、複数機による複合爆弾投下訓練のために使われたのではないか、と疑われる。
(略)
同時期に13機もの多数機が訓練を受けるのは、ピカドン(核爆発)訓練としては違和感がある。
まるで意味不明です。論理的に考えてみてください。
- 広島・長崎が(原爆ではなく)複合爆弾による攻撃であったなら、そもそもこんなおかしな形状、わざわざ訓練が必要な爆弾を使う必要はない。普通の爆弾を使えばよいこと。
- しかし、こんな爆弾でわざわざ訓練させたということは、実際の「原爆投下」でもこの形の「模擬原爆」を複数投下したということになる(林説によれば)。一発では無理である。
- ということは、本番では、乗組員には原爆だと思わせておいて、実際には、このおかしな形の通常爆弾を投下させたことになる。
- しかし、通常爆弾であれほどの被害を出すには、あまりに多数が必要。
- ということは、B29の大編隊がやってきて、それぞれの乗組員が「本物原爆」だと思いこんで投下したというのか?
どう考えても辻褄があいません。
- 乗組員が「これまでにない強力な爆弾だ」と認識していた場合→「あれ?なんでこんな大編隊が必要なの?」
- 認識していない場合→「あれ?なんでこんな形の爆弾なの?普通でいいじゃん」
となりますね。
第6章 母なるエノラ・ゲイの発進
これも写真ばかりで実質1ページの章です。
エノラ・ゲイ搭乗直前にティベッツ大佐が語った最後の言葉がこうだというのです。
「『ギミック』(からくり)が誰かの単なる荒唐無稽な夢かもしれないと考えながら、自分たちのしていることの意味が分からないことがいかに大変なことであったか」
「6ヶ月は戦争の集結を早めることになる爆撃作戦に選ばれたことを、個人的に名誉に思っているし、われわれも全員そうだろうと確信している」
大佐のこの言葉でこの章は終わりです。何の説明もありません。おそらく林の意図としては、『ギミック』(からくり)という言葉に「嘘」を匂わせたかったのでしょうけれども、あまりに無理筋なので、これ以上の説明ができなかったのでしょう。ティベッツ大佐の言葉より、なぜこんな章を残したままなのかの方がはるかに不可解です。ともあれ、ただの印象操作です。
で、調べてみると、ティベッツ自身がこの言葉を述べたという一次資料は見つかりません。
林が引用しているのは、注釈にある通り、マイケル・ゴーディン著『原爆投下とアメリカ人の核認識: 通常兵器から「核」兵器へ』の120ページですが、この原著は、Michael D. Gordin『Five Days in August: How World War II Became a Nuclear War』です。
この該当個所は、AIに調べてもらうと、次の記述だそうです(私は原著を持ってません)。
Tibbets concluded the formal briefing with a short homily. Later he would not be able to recall his exact words, but Sergeant Abe Spitzer … was keeping a diary of his impressions, and his was the only record.
ティベッツは、短い説教めいた話をして正式なブリーフィングを締めくくった。後になって彼は自分が正確に何と言ったのか思い出せなくなったが、エイブ・スピッツァー軍曹は……そのときの印象を日記に記しており、それが唯一の記録だった。
つまり、ゴーディン自身も「これはティベッツの言葉そのものではなく、スピッツァーの日記から再構成した」と認めています。そのうえで、次のように述べたというのです。
“…how difficult it had been for them, not knowing what they were doing, thinking maybe the ‘gimmick’ was just somebody’s wild dream.”
「『ギミック』(からくり)が誰かの単なる荒唐無稽な夢かもしれないと考えながら、自分たちのしていることの意味が分からないことがいかに大変なことであったか」
そして、元ネタとなったスピッツァーの日記はAbe Spitzer’s Diaryからダウンロードできます。
文字起こしがなく、読みにくいので、なかなか難しいのですが、私の今のところの結論としては、このgimmic(gimmick)という言葉は、スピッツァーが符丁として使っているだけで(あるいは軍隊内の符丁だったかも)、ともあれ、ティベッツの言葉に出てきたものではありません。
少なくともティベッツ自身が搭乗直前に「何かを匂わせるために、この言葉を使った」ということはありえません。
13ページを見てみましょう。これは、8/4のことで、爆弾投下をティベッツ大佐自身が行うと知らされたときですね。当然ですが、ティベッツの搭乗より前のことです。
この後半部分はこうです。
At 1500, seven crews assembled in the combat room together with several of the important long hairs and two 2 star naval officers. Something was in the wind for sure.
15時、7組の搭乗員が、何人かの「long hairs(学者連中)」と、海軍の少将2名とともに作戦室に集まった。何かが起こっていることは間違いなかった。
We were soon to learn the great secret, the cause of all this elaborate preparation—the Gimmic. Plans were being discussed for the first drop which the old man himself, Colonel Tibbets, was to execute.
我々はまもなく、すべてのこの手の込んだ準備の原因となっていた大きな秘密――「Gimmic」――を知ることになった。最初の投下について計画が話し合われており、それはほかならぬティベッツ大佐自身が実行することになっていた。
The details were explained by Capt Parsons of the Navy. It was unbelievable. It couldn’t be possibly. Why, this wasn’t real, it couldn’t be (?) — this was some weird dream conceived by one with a too vivid an imagination. Could man apply his inenuity to such an exterm(?) to conceive and devise an element or such powerful magnitude to destroy? So this was it!
詳細については海軍のパーソンズ大尉が説明した。それは信じられないものだった。そんなことは到底あり得ない。いや、これは現実ではない、現実であるはずがない――これは、あまりにも豊かな想像力を持った誰かが考え出した奇妙な夢(weird dream)なのだ。人間は、これほどの極限までその才知を働かせ、これほど強大な規模の元素(element)を考案・設計し、破壊のために利用することなどできるのだろうか?
そういうことだったのか!
おそらくですが、ゴーディンは、このスピッツァーによるGimmicという言葉を使い、weird dreamをwild dreamに変更して、ティベッツの言葉を再構成したのではないですかね?想像ですけどね。
ともあれ、ティベッツ自身の言葉という一次資料はありません。
さらに日記の15ページあたりでは、8月6日の出撃の様子について書いてますが、ティベッツの言葉は書いていないようです。
ともあれ、ティベッツ自身の言葉であることの証拠がないどころか、そうではないと明確に論証できるのです。



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