マイク・ストーン:ウソルス学入門、その論理的誤謬、その2

その1はこちら

後件肯定(affirming the consequent)

ウイルス学の手法に組み込まれている第二の誤謬は、「後件肯定」として知られる。この誤謬は条件文の使用を伴う。典型的には先行詞(「if 」の後の部分、訳注:もし何々の場合)と帰結詞(「then 」の後の部分、訳注:であれば何々)の間の関連性を表現する「if-then 」文として書かれる。注意が必要な点としては、この条件文は先行詞と帰結詞のいずれかが真であると主張するものではなく、先行詞が真であれば帰結詞も真のはずと主張するだけである。結果の存在が先行詞の真偽を確証すると誤って主張することにより、この誤謬を犯すことになる。この誤謬は次のように表現できる。

後件肯定の誤謬の簡単な例としては次のようなものだ。

  • リンゴを一度に25個も食べたらお腹が痛くなる。
  • お腹が痛い。
  • だから、リンゴを一度に25個食べたのである。

この論理は明らかに誤りだ。一度に25個のリンゴを食べることとは関係なく、腹痛を起こす理由はたくさんあり得るからである。腹痛はリンゴを25個食べた証拠にはならない。もうひとつ簡単な例を挙げよう。

  • もし雨が降ったなら、通りは濡れることだろう。
  • 通りが濡れている。
  • したがって、雨が降ったのである。

しつこいようだが、この論理は誤りである。雨以外の理由で道路が濡れる可能性があるからだ。誰かがホースで撒いた、消火栓が破裂した、あるいは清掃車が周辺を通ったのかもしれない。道路が濡れているからといって、自動的に雨が降ったことにはならない。したがって、結論は前提の真理を確証するものではなく、論理が誤っている。

細胞培養実験においても、この誤謬が同様に行われる。ウイルス学者たちは、「感染した」培養物にCPEが観察されることが、「ウイルス」が存在する証拠であると思い込んでいる(訳注:培地に病人の体液等を混ぜることを「感染」あるいは「接種」などと呼ぶ)。

  • (訳注:人間の体液などの)サンプル中に 「ウイルス 」がいるならば、培養液中にCPEが起こるだろう。
  • CPEが起こっている。
  • したがって、サンプル中に「ウイルス」が存在する。

この誤謬にはいくつかの理由があるが、最も重要な点は、CPEの観察以前に 「ウイルス 」の存在証明が必要なことである。原因(前件)の存在の主張のために、結果(後件)を使うことはできない。他の例と同様に、ウイルス学者が 「感染した 」培養物においてCPEを観察する理由には多くの可能性があるが、それは次に述べる。

前後即因果の誤謬(false cause fallacy)

前後即因果の誤謬は、2つの変数や事象の間に因果関係が存在すると、証拠もなしに誤って思い込むときに起こる。Bが本当にAによって引き起こされたと信じるに足る十分な理由も証拠もなく、「AがBを引き起こす」と主張するときは常にこの誤謬が働いている。この欠陥的論理は、しばしば 「相関関係は因果関係を意味しない 」という言葉に要約される。ある事象が別の事象に続いて起こったからといって、あるいは事象が同時に起こったとしても、それらが因果関係にあるとは限らない。この誤謬が実際に使われている優れた例をいくつか挙げよう。

  1. あなたがこのビルに引っ越してくるまで、このエレベーターに問題があったことは一度もなかった。
  2. 彼らはビジネスで大成功を収めていた。彼らは養子を迎えることを決めたが、ビジネスはたちまち赤字に転落した。
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  4. NFCがスーパーボウルに勝つと、株式市場はたいてい良い年になる。来年はNFCが勝つといいな。
  5. マリリン・マンソンの音楽があの殺人事件に関係しているのは間違いない。犯人の個人コレクションからマンソンのCDが見つかったんだ。

これらのケースの場合、2つの事象が連続して、あるいは時間的に密接に関連して起こっただけの理由で、2つの事象が関連していると思い込んでいる。このような欠陥的論理は、ウイルス学者が行う細胞培養実験にも見られる。病気の患者から採取した未精製の肺液や鼻粘液をサルの腎臓細胞の培養液に加え、その後にCPEが観察されれば、そのサンプルに 「ウイルス 」が存在し、最終的にCPEを引き起こしたと仮定するのだ。この論理は、そもそも「ウイルス」の存在に関しての論点先取の誤謬に結びつく、また、想定される原因(「ウイルス」)の証明として結果(CPE)を用いることで、後件肯定にもなる。これは、円環的論理のもつれた網なのである。実験や観察が行われる前に、病原性「ウイルス」として説明されるいかなる存在も直接的に証明することができないのである。

この誤謬は、ジョン・フランクリン・エンダースが細胞培養実験を確立した1954年の最初の論文で使われた。つまり、「感染した」培養物に生じたCPEは、麻疹「ウイルス」の中にある効果の原因を「分離」した証拠だと仮定したのである。

(訳注:実際には培地に患者の体液を入れてそこでCPEが起こっただけだが、エンダースは、論文中でもそれを「分離(isolation)」と称している)

B )細胞変性の範囲。サルの腎臓は、ウイルスの接種後に上記のような特徴的な変化が確実に観察される細胞の増殖が得られた唯一の組織である。ダルベッコ法(13)をヤングナー(Youngner)が改良した方法で調製したサルの腎臓上皮細胞を主成分とする培養物では、細胞変性的変化が定期的に観察され、それは新鮮な調製物でも染色した調製物でも見られたように、ヒトの腎臓細胞でこれらの薬剤によって生じたものに酷似している。このような効果が、麻疹患者の血液や咽頭洗浄液、および以前の継代培養に由来する感染組織培養液の添加に引き続いて生じた。

この一節の直後、エンダースは観察されたCPEの原因として他の可能性を認めた。しかし、これらの、他の 「ウイルス 」因子や未知の因子が引き起こしたCPEは、麻疹 「ウイルス 」に起因するとしていたCPEと類似していると主張した。

したがって、サル腎臓での培養は、ヒト腎臓での培養と同じように、これらの病原体の研究に使えるかもしれない。しかし、その際には、表面的には麻疹の病原体による感染に類似した細胞変性効果が、サル腎臓組織に存在する他のウイルス因子(Gの最後の段落を参照)や未知の因子によって誘発される可能性があることを念頭に置かねばならない。

エンダースは最終的に、彼の論文にある細胞変性の所見は、麻疹 「ウイルス 」によって引き起こされるという彼の推定を裏付けるものであると結論づけることになる。

結論として:要約した所見は、この病原体群が麻疹の原因ウイルス種の代表から構成されているという推定を支持するものである。

組織培養や細胞培養で観察された細胞変性的変化は「麻疹ウイルス」によるものであると、なぜエンダースが最初に考えたのかは不可思議である。特に、麻疹の論文と同じ年に発表された『ウイルス感染の細胞病理学(Cytopathology of Virus Infections: 特に組織培養研究への言及』で彼自身が認めていることに照らしてみるとである。この論文の中で、エンダースはCPEの解釈について明らかに譲歩している。彼は、CPEは多くの有害物質によって誘発される可能性があり、この観察だけでは 「ウイルス 」によるものであると断定はできないと説明しているのだ。にもかかわらず、エンダースは、特定の 「ウイルス 」に起因する特定のCPEパターンを熟知している観察者であれば、「ウイルス 」が原因であると暫定的に結論づけることができると主張した。

グループ1の変化は、多くの有害物質によって誘発される可能性がある。したがって、これらの現象だけをもって、必ずしもウイルス活動の結果とみなすことはできない。このことを証明するためには、一定の管理手順(連続培養、同種抗体による変化の防止など)を適用せねばならない。しかし、ある細胞系における特定のウイルスの作用に精通していれば、観察者はしばしば、このウイルスが原因であると暫定的に結論づけることができる。

エンダースはまた、「ウイルス感染 」に特徴的とされる封入体(訳注:異常な物質の集積により形成される細胞内の異染色領域)などの形態学的変化についても述べた。しかし彼は、ある種の化学物質や未知の因子もこのような変化を引き起こす可能性があるため、これらの変化は「ウイルス」活動の決定的な証拠にはならないと認めているのだ。封入体は 「ウイルス 」に起因する最も初期の変化の一つであり、他の要因でも起こりうるにもかかわらず、「感染 」の基準として用いられた。

「ウイルス傷害の形態学的指標としては、封入体(上記グループ2)の形成が最も特徴的であるが、この過程もまたウイルス活動の決定的証拠と認めることはできない。封入体は、in vitro(実験室内)で探索され、感染の基準として採用された最初の細胞変性変化である。しかし、ウイルス増殖の指標としては、グループ1の変化よりも有用性が低い。

実験室で観察される細胞変性的変化は、既知のものも未解明のものもあり、多くの要因に影響されることをエンダースは認めている。彼は特定の感受性細胞株(訳注:ウイルスに感染しやすい細胞)と 「ウイルス複製 」との相関を試みたが、この相関が常に正しいとは限らず、時には逆のことが観察されることもあると指摘している。

試験管内での細胞変性性は、既知の要因もあるが、まだ定義されていない要因も多い。はじめに、個々の病原体の挙動について記録された観察結果を概観する手始めとして、現在知られているいくつかの因子を挙げておく。第一に重要なのは、細胞の起源となる生物種である。ウイルスの宿主範囲と類似しているのが、培養細胞における細胞変性性の範囲である。しかし、生体内におけるものとその細胞の感受性には必ずしも相関関係があるとは限らない。このような相関関係はしばしば見られるが、感受性のある種の組織がウイルスの増殖を支持できないこともある。

エンダースは、ある種の 「ウイルス 」が特定の細胞型を特異的に標的とすることを主張しようとしたが、彼はまた、生体内と生体外の細胞向性に絶対的な関係はないことも認めた。

ある種のウイルスでは、細胞の種類が決定要因となる。したがって、あるウイルスが培養物中に存在する上皮細胞を攻撃して破壊しても、線維芽細胞は無傷のまま残ることがある。単一の細胞型からなる株を用いた実験は少ないが、その結果は、生体内でのウイルスの細胞向性特性が実験室内でも保持されている可能性を示している。しかし、もう一度言うが、生体内と実験室内の細胞向性(訳注:ウイルスが増殖に可能な特定の細胞を選ぶこと)に絶対的な関係はない。

彼はさらに、ドナー組織の年齢が細胞変性性に影響を与える可能性があることを指摘している。

組織ドナー側の年齢が細胞変性性に影響するかもしれない。若い動物は感染しやすいことが多く、その組織はウイルスによる傷害を受けやすいかもしれない。しかし、ここでもこの相関関係は不変ではない。関連するデータのほとんどは、ウイルス感染に対する獲得免疫は細胞抵抗性の増加には反映されないことを示している。この事実は、ドナー動物の免疫学的状態に対する懸念がなくなるので、技術的な観点からは有利である。

さらにエンダースが認めていることは、組織培養による研究以前の、想定される 「ウイルス 」を増殖させる条件が、CPEの強度と程度に影響しうることである。彼は、連続継代培養が中程度あるいは弱い細胞変性性を高める可能性があることを認めており、研究者のアプローチがCPEの観察に直接的に影響することを示している。

細胞変性傷害の強さと程度は、ウイルスの株や組織培養における研究以前の増殖条件によって異なるかもしれない。研究者は、あるウイルス種の多くの代表的なウイルスを研究する際に、このような変動に遭遇することを覚悟せねばならない。中程度あるいは弱い細胞変性性は、実験室内での連続継代によって増強されるかもしれない。

最後に、エンダースは、既知、未知を問わず、培養中の環境因子もまた、細胞病原活性を増強したり抑制したりする可能性と認識している。彼はCPEに影響を与える要因として、培地の組成、培養温度、「ウイルス」添加前の細胞の培養期間を挙げた。

培養中の環境因子は細胞変性活動を増強または抑制する傾向がある。これらの要因の多くはまだ定義されていないが、証拠があるものとしては、培地の組成、培養温度、ウイルスを添加する前の細胞の培養期間などすべてが決定要因になりうる。

以上見たように、ジョン・フランクリン・エンダースが認識していたことは明らかである、「ウイルス」の存在とは無関係に、彼が「ウイルス」に起因するとした細胞変性効果を引き起こしうる様々な要因があることを。病原性 「ウイルス 」が存在し、実際に機能する直接的な証拠はなく(論点先取)、観察された効果を用いてその原因の存在を主張した(後件肯定)ことを考えれば、エンダースが前後即因果の誤謬を犯したことは明らかだ。同じ効果をもたらしうる既知の複数の要因があったため、「ウイルス」という説明は不要であり、まったく非論理的だったのだ。

(続く)

 

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